日本熱測定学会は,熱量測定と熱分析を研究手法として活用する種々の物質を対象とした研究者・技術者から構成される学会です.物質を扱っておられる方は,研究,開発,実習などを通して,何等かのかたちで熱的な測定に触れる機会があるかと思います.熱量測定は,あらゆる物質の熱力学的データを提供する重要な役割を担っているとともに,精密な熱量測定データを熱力学・統計力学に基づいて論理的に解析することにより,温度および圧力などをパラメータとした物質の変化挙動を読み解いていきます.熱分析は,物質のある物性の変化を温度や時間の関数として追跡する測定技法の総称で,熱重量測定(TG)や示差走査熱量測定(DSC)をはじめとして,種々の技法が研究・開発から製品管理にいたる様々な場面で活用されています.このうち,TGは,1915年に開発された本多式熱天秤を祖とする日本発祥の測定技法とされています.熱量測定および熱分析を総じて熱測定と呼びますが,いずれにおいても,物質の物性やその変化挙動を熱の出入りや物性値の変化によりマクロに読み取り,そのデータをもとにしてよりミクロな視点におけるメカニズムを説明するための解析を行います. 日本熱測定学会は,金属からバイオまでの様々な物質や現象を対象とした研究・開発から製品管理の様々な目的の熱測定で遭遇する種々の問題や課題を持ち寄り,熱測定の専門的観点から議論し,解決に向けた糸口を探る開かれた学会です.年4回,学会誌「熱測定」を発刊し,熱測定に関する研究論文や解説を掲載するとともに,学会活動について会員の皆様にお知らせしております.毎年,秋に熱測定討論会を開催し,研究を始めたばかりの学生さんからトップクラスの研究者までが,それぞれ提起された熱的現象や熱測定の課題についてオープンに議論する機会を提供しています.この討論会は,2022年度に第58回を迎えました.半世紀を越えて継続されているのは,北米のカロリメトリーコンファレンスと本学会だけであり,熱測定学会の活動の重要性を意味しています.また,年2回,これから熱測定を始める学生さんや技術者の方々を対象として熱測定基礎講座を開催し,信頼性の高い測定法と解析法を身に付けていただく機会としてご活用いただいています.コロナ禍によりオンラインを取り入れたプログラムで実施しており,その詳細はホームページをご参照ください.本ホームページ内には,「熱測定コンシェルジュ」という,熱測定に関する相談窓口を開設いたしております.さらに,熱測定にかかわる特定課題の現状分析や課題解決を目的とした熱測定ワークショップを不定期に開催し,学会としての学術レベルの向上に努めております.このような活動を通じて,本学会は熱量測定および熱分析の両分野において,世界でも屈指の学会として発展してまいりました. 熱測定は,物質の性質を調べたり様々な材料の製品化を進める上で欠くことのできない測定ですが,測定技法,測定条件の選択,データの理解や解釈にもノウハウがあります.各分野で熱測定を今後使われる皆様,すでにご活用されている皆様に是非とも本学会に参加いただき,熱測定に関する疑問や課題を持ち寄っていただけると有り難く存じます.また,本学会で得られた熱測定に関する専門的知識や技能を物質科学の各分野に持ち帰っていただくことにより,本学会のみならず我が国の熱科学研究の推進に貢献いただくことを願っております.これまで先達の先生方に築いていただいた日本熱測定学会の理念を基盤として,維持会員としてご参加いただいている企業のご協力を得ながら,時代に即した日本熱測定学会の在り方を模索してまいります.皆様のご協力をよろしくお願いいたします.
日本熱測定学会 会長 中澤 康浩 (大阪大学大学院理学研究科)