会長挨拶

 日本熱測定学会は,熱量測定と熱分析(あわせて「熱測定」と呼んでいます)という実験手法の両方をカバーする学会組織です.今般の「軽く,小さく,速く,高機能に」という趨勢の下,利用される素材はより複雑になる一方,避けることのできない「廃棄物」である熱を,どう利用し,あるいはどう効率的に捨てるかといった問題がこれまで以上に重要になりつつあります.要素還元主義を突き詰めるだけでは研究・開発の糸口を見つけることすら難しくなって,適用対象を選ばない熱測定の役割が増しています.生物学における熱力学的研究の広がりは,複雑な対象を記述する場合の熱力学的な視点の重要性を端的に表しているといえます.しかし,避けることができず,その意味で身近であるからこそ測定・解析が困難であるというのが熱的現象では無いでしょうか.本学会はこの困難に向き合い,関連分野の普及と発展もたらすことを目的としています.
 熱量測定は,熱と温度を区別する事により熱力学という古典物理学の一分野の確立に貢献し,定量的な熱測定も18世紀に遡ることができる歴史の長い分野ですが,熱力学の応用に欠かせない物質の熱力学データを提供するという重要な役割を持つとともに,生命科学における熱力学的研究が広く推進されつつあるなど,自然科学の基礎・応用において重要な貢献を続けています.一方,熱分析は,熱力学の成立を前提に,物質の性質を温度の関数として測定することにより様々な自然現象を解析する実験手法です.熱分析の歴史は19世紀に遡ると言われますが,KS鋼の発明で有名な本多光太郞博士(東北大学)による熱天秤(熱重量分析)の発明(1915年)は,熱分析分野への非常に重要な貢献と評価されており,その後も反応速度の解析など,わが国の熱分析研究は世界の熱分析をリードしています.
 日本熱測定学会には,熱測定というキーワードに媒介され,熱的測定法の開発・改良と利用を様々な分野で行う研究者・技術者が集っています.討論会やワークショップを開催して幅広い話題について研究成果を交流するなどして専門的な議論を行う一方,参加を会員に限定せず,会員ではない参加者が研究の実例に触れる機会とする事も可能としています.さらに,最近では討論会でミニ講座を開催して,熱測定の普及にも取り組むこととしています.加えて,専門的に熱測定を学ぶことを希望される方を対象に講習会も開催しています.
 日本熱測定学会の特徴は,測定法を媒介としながら多様な専門性を持つ研究者・技術者が参加していることにあります.測定法を共有することにより,基礎研究から応用に至る広い分野の会員間での対話が可能になり,その対話をきっかけに新しい実験法が生まれ・育ち,それを利用した新しい研究・開発の分野が広がります.そして,この好循環は参加している会員の専門が多様であればあるほど活発になるはずです.本学会はそのような環境を提供する特徴ある学会であると自負しています.つまり,研究・開発の過程で遭遇した熱的問題の解決の糸口を探していただくだけで無く,新しい可能性を作り出すことに自ら積極的に関わっていただける学会でもあります.熱測定に興味を持つ研究者・技術者のみなさん,ならびに企業・団体のご支援とご参加を心よりお待ちしております.

2017年11月 日本熱測定学会 会長 齋藤一弥
(筑波大学 数理物質系)