熱測定  NetsuSokutei   29(1), 2-4 (2002)

【 特集−周期加熱法　解 説 】

京都工芸繊維大学繊維学部, Dept. of Polymer Science and Engineering, Kyoto Institute of Technology
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(1), 5-10 (2002)

【 特集−周期加熱法　解 説 】

ACカロリメトリーは微量な試料の熱容量を高精度で測定できる方法である。他方，ACカロリメトリーで潜熱を測定することは難しい。それらの長所と短所についてその現状を概説し，将来の発展の可能性について述べた。

東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻,
Dept. of Condensed-Matter Physics, Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(1), 11-15 (2002)

【 特集−周期加熱法　解 説 】

原非接触測定法である光音響法の特徴，測定原理，測定装置，測定例について，筆者が関与している固体材料の熱物性値測定に関する研究を中心に解説を進めた。光音響法で関係する光，熱および音の関わり合いを概説した。変調された入射光に対する光音響信号（音波）の位相遅れが，RG（Rosencwaig and Gersho）理論により試料の熱物性値などの関数として導出されることが説明された。入射光の変調周波数を変化させて測定された位相遅れの結果から，基盤の熱物性値が未知の場合にも，試料の熱拡散率が得られることを示した。入射光の変調周波数と試料の厚さ方向の情報の関係，試料の入射光に対する透過性の差異による取り扱いの留意点についても若干の説明を行った。

岡山大学工学部機械工学科,  Department of Mechanical Engineering, Faculty of Engineering, Okayama Univ.
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(1), 16-20 (2002)

【 特集−周期加熱法　解 説 】

3w法は金属薄膜をヒーターおよび温度センサーとして共用することにより，広い周波数領域にわたって熱測定を可能にする方法である。この方法では10 kHz程度までの測定が比較的容易に行えるため，熱容量の周波数依存性を測定する熱容量スペクトロスコピーに適用されている。また測定周波数を高くすることで金属薄膜に接した試料表面付近の情報を選択的に得ることが可能となるので，薄膜試料の熱物性測定にも使われている。本報告では，液体のガラス転移の研究に誘電率測定と熱容量スペクトロスコピーの同時測定法として応用した事例について紹介する。この同時測定により，双極子モーメントの誘電緩和現象とエンタルピー緩和現象との相関が議論できることを示す。

東京工業大学応用セラミックス研究所, Materials and Structures Laboratory, Tokyo Institute of Technology
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(1), 21-26 (2002)

【 特集−周期加熱法　解 説 】

周期的変調法のひとつである温度変調DSC（T-M DSC）について解説する。この手法は，簡便な測定法であるDSC本来の特徴により，熱容量やその緩和現象の研究に多用されている。また，T-M DSCでは，周期的変調に対する熱流の応答のみならず，定速昇温（降温）に対する応答も同時に得られるので，周期的変調に敏感な過程と鈍感な過程の分離や，1次転移・化学反応のキネティクスの研究にも有効な測定手段である。

広島大学総合科学部, Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima Univ.
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(1), 27-32 (2002)

【 特集−周期加熱法　解 説 】

温度波熱分析法は，薄膜の表面でジュール熱を発生させ，全方位に拡散していく波のうち，試料の厚み方向に伝搬する成分のみに着目し，温度波の位相遅れを観測する方法であり，これは，振幅変化など温度の絶対値測定は，接触抵抗など，測定上の外乱に強く影響を受けるが，位相はほとんど影響を受けない点に注目した方法である。
本報告では，この方法を液体試料に適用し，物性値既知の石英ガラスをバッキング物質として，あるいは液体試料に投入するプローブとして使用し，試料と周囲の物質を入れ替えて測定する方法を検討した。特にプローブ法は，与えた通電量と試料内を伝搬後観測される温度波の振幅との関係から，液体の熱伝導率を比較的安定に計測する方法を提案するものである。

東京工業大学大学院理工学研究科助手, Department of Organic and Polymeric Materials, Tokyo Institute of Technology
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(1), 33-37 (2002)

【 特集−周期加熱法　解 説 】

Rostock大学のSchick教授と猿山の間で，周期加熱法についての意見交換を，e-mailによって行った。Schick教授は周期加熱法による研究を活発に行ってこられ，この分野での指導的な研究会となっているL�hnwitzseminarの世話人を長年にわたって務めてこられた方である。この特集のテーマについて意見をうかがうには最もふさわしい方である。この意見交換を楽しんで読んでいただければ幸いである。

Universit�t Rostock, Fachbereich Physik
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(2), 58-61 (2002)

【 論 文 】

農業生物資源研究所および戦略的基礎研究推進事業,
Dept. of Biopolymer, National Institute of Agrobiological Sciences, and Core Research for Evolutional Science and Technology
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(2), 62-71 (2002)

【 解 説 】

電気化学反応過程において，サーミスターを用いた電極の熱測定を行った。
種々のイオン（L^＋, K^＋, ClO₄⁻, BF₄⁻）のデインターカレーション，SO₄²⁻のドーピングと水素イオン脱離，そしてClO₄⁻のドーピング・脱ドーピングのエントロピー変化を反映する熱応答が，各々，グラファイト，ポリアニリンおよびポリピロール電極上で明瞭に得られた。電気化学測定と熱測定を組み合わせることにより，反応プロセスを理解する上での有用な情報を得ることができる。

豊橋技術科学大学物質工学, Dept. of Materials Science, Toyohashi University  of Technology
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(2), 72-81 (2002)

【 解 説 】

計測結果の誤差評価における表現方法の統一を目的として，従来の「誤差」に替わる新しい概念である「不確かさ」に基づいた表現方法が提唱されている。本稿では，代表的な熱膨張率測定法である押し棒式膨張計および光干渉法による線膨張率測定における計測結果の不確かさ要因の分類を中心に，また併せて「不確かさ」の表現方法のガイドにそった不確かさの導出を示すことにより新しい「不確かさ」表現方法についての解説を行なった。

産業技術総合研究所 計測標準研究部門, National Metrology Institute of Japan, AIST
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(2), 82-91 (2002)

【 解 説 】

量子マイクロカロリメータは，高波長分解能と高検出効率を同時に実現するX線線検出器として実用化されつつある。マイクロカロリメータの動作原理とX線分光検出器の現状を概観した後，マイクロカロリメータの動作と雑音について議論した。次に，超電導遷移端を温度計に利用したTransition Edge Sensor（TES）型カロリメータの製作方法と信号の読み出しの実際について，我々の実験に基づいて解説した。最後に，今後のマイクロカロリメータの可能性として，近赤外線から硬X線までの広い波長への応用について議論した。

宇宙科学研究所宇宙圏研究系, Institute of Space and Astronautical Science
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(3), 102-114  (2002)

【 講 座 】

電子スピンに関する磁気現象には電子のスピンと軌道の磁気モーメントが関与しているが，主役はスピンの方である。このような磁気現象がどのような形で熱容量に反映するかを解説した。スピンは量子化された物理量であり理論的取扱が明確なので，磁気熱容量は固体物理における理論やモデルの検証にも役立っている。本稿では分子磁性体と集積型金属錯体を取り上げ，低次元性の解析や次元クロスオーバー，単分子磁性体の磁場中での熱容量について解説した。スピン配向に関する秩序・無秩序転移ばかりではなく，スピン状態そのものが変化するスピンクロスオーバー現象や，電荷移動とスピン状態の変化が連動する珍しい系についても紹介した。

大阪大学大学院理学研究科分子熱力学研究センター，Research Center for Molecular Thermodynamics, Graduate School of Science, Osaka Univ.
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(3), 115-121  (2002)

【 解 説 】

TMan has used some of his materials in non-equilibrium state for a long time. Glasses are typical example of substances in frozen-in disordered state which was realized by non-equilibrium processing. Thermodynamic characterization of molecular glasses was described briefly. Formation of non-crystalline solids by various kinds of non-equilibrium processing other than the traditional liquid cooling was discussed. Solid-state vitrification by mechanical milling and formation of molecular alloys for some binary systems were described with potential application to pharmaceuticals.

近年高まりつつある種々の非平衡操作の開発と，得られる非平衡凍結状態の熱力学的性質を論じた。とりわけ結晶粉砕による非晶化は，分子性結晶に対しては一成分系でも可能な場合があり，それらを適切に組み合わせた二成分系では全組成域にわたって非晶性分子アロイを作ることができた。一成分系で全く非晶化しない系でも，適当な結晶と混合して粉砕すれば，部分的組成にわたって分子アロイが生成する実例を挙げ，医薬品への応用の可能性を論じた。

大阪大学名誉教授, Professor Emeritus, Osaka Univ.
 
 

熱測定  Netsu Sokutei   29(3), 122-130  (2002)

【 解 説 】

Lab. de Physique des Geomateriaux, Institut de Physique du Globe
 
 

熱測定  Netsu Sokutei   29(4), 146-151  (2002)

【 論 文 】

Differential thermal analyses (DTA) of six slags of different added-CaO content fabricated from municipal waste ash were performed with various heating rates. An endothermic peak caused by glass transition and two exothermic peaks caused by crystallizations were observed for four specimens of low CaO-content. With decreasing the heating rate, the two peaks were superposed on each other. On the other hand, only one crystallization peak was observed for two specimens of high CaO-content. In order to estimate the activation energies of the crystallizations, a modified Kissinger equation was defined by use of the first peak in the derivative of the DTA curve. The obtained activation energies were correlated with basicities of the specimens defined by the JIS, ASTM and Ca/Si. The phases of thoroughly crystallized specimens were identified by X-ray powder diffractometry. Pseudowollastnite, anorthite and albite were main crystalline phases for four specimens of low CaO-content, while gehlenite was only phase for two specimens of high CaO-content. These phases could be explained by the SiO2-Al2O3-CaO ternary phase diagram. Through the analysis of the four partially crystallized low CaO-content specimens, it was found that the phase crystallized initially in the two lower CaO-content specimens was pseudowollastonite, and that of the two higher CaO-content specimens was gehlenite.

CaO添加量を変えた6種類の都市ごみスラグの示差熱分析を，昇温速度をさまざまに変えて行った。CaO量の少ない四つの試料ではガラス転移と二つの結晶化による発熱ピークが見られたが，結晶化のピークは昇温速度が遅くなるにつれて重なって観測された。一方，CaO量の多い二つの試料では結晶化のピークは一つだけ見られた。結晶化の活性化エネルギーを見積もるために，DTAの微分曲線の最初のピーク温度を利用した修正Kissinger式の定式化を行った。求めた活性化エネルギーは塩基度の増加とともに低くなる傾向が見られた。十分に結晶化させた試料の結晶相の同定を粉末X線回折で行った。CaO量の少ない四つの試料ではシュードワラストナイト，アノーサイト，アルバイトが主要相であったのに対し，CaO量の多い二つの試料はほとんどゲーレナイト単相からなっていた。その挙動はシリカ−アルミナ−カルシア三元系平衡相図から予想されるものである。CaO量の少ない四つの試料を部分的に結晶化させたものの解析から，CaO量のより少ない二つの試料の初晶はシュードワラストナイトであったのに対し，より多い二つの試料の初晶はゲーレナイトであった。

龍谷大学
 
 

熱測定  Netsu Sokutei   29(4), 152-162  (2002)

【 論 文 】

LiCl，NaCl，KCl，RbCl，CsClおよびAl2O3（コランダム）について熱容量Cpのデータを最小二乗法にもとづく方法によって解析し，定積熱容量を推定した。この解析法は格子振動スペクトルの大勢を中低温領域で決め，高温領域において調和振動子熱容量を超える部分から熱容量差を決定するものである。また熱膨張係数とスティッフネスの文献データを用いて，定圧熱容量と定積熱容量の差を計算した。300 Kまでの範囲で，NaCl，KCl，RbClについて計算値はCpの解析による値と約10 %の範囲に一致したが，LiClとCsClについては熱膨張係数とスティッフネスにもとづく値の方が20〜30 %大きい結果が得られた。コランダムについては900 Kまでのデータを用いて，Cpからの値が約25 %だけ大きいことを見出した。またコランダムの熱容量データの解析から高温領域（1800〜2250 K）の値について得られる知見を論じた。

大阪大学
 
 
 

熱測定  Netsu Sokutei   29(4), 163-172  (2002)

【 講 座 】

In the study on phase transitions, heat capacity is one of important quantities since at almost all phase transitions heat capacity exhibits anomalous behavior. Phase transitions are characterized by two kinds of categories. One is a continuous transition where the order parameter becomes zero continuously at the transition temperature and the other is a discontinuous transition where the order parameter exhibits a jump at the transition temperature. The former includes so-called a second-order transition and the latter is called a first-order transition conventionally. Within framework of mean field approximation, it can be shown that heat capacity exhibits a jump at a continuous transition. However, in a much higher approximation or an exact solution heat capacity diverges at a continuous transition. In such a case, critical exponents are a useful parameter to know characteristics at a phase transition and scaling relations are also applicable to know self-consistency among critical exponents. It is pointed out that although critical amplitudes have been less noted so far, we have to pay attention to them. At a discontinuous transition, kinetics is important because heterogeneous structures result in it always. There are a lot of materials with microscopic heterogeneous structure which undergoes a state transformation. Dynamic heat capacity measurement is one of promising tools in such a field.

相転移現象の研究において，熱容量測定は有力な手段である。一つは如何なる相転移においても熱容量異常は現れることであり，もう一つは熱容量測定からギブス自由エネルギーを求めることができるからである。相転移は二つに分類される。連続転移と不連続転移である。前者はいわゆる2次転移を含むものであって，後者は従来のいわゆる1次転移と慣習的に呼ばれている。平均場近似の枠内では連続転移で熱容量がとびを示すが，より高い近似あるいは厳密解では熱容量異常は単純なとびではない。現実の場合は，後者がほとんどである。この場合，臨界指数およびスケーリング則が相転移現象を理解するのに有効である。測定される量としては，臨界振幅もある。これは相転移を特徴付ける有効なパラメーターであるが，これまではあまり着目されていない。不連続転移では潜熱が現れるが，この相転移は平衡熱力学よりはむしろ非平衡熱力学の観点より解析されるべきである。このような立場から熱容量スペクトロスコピーは有用な測定法である。

福井工業大学
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(4), 173-179  (2002)

【 解 説 】

Accurate data for high temperature heat contents and heat capacities of substances are valuable for the study of materials and processes at elevated temperature. The heat contents and heat capacities of solids and liquids above 1000 K are determined experimentally by drop calorimetry and the use has been extended to higher temperatures by using modern techniques for measuring and controlling temperature. The general requirements for the drop method are described in terms of furnace assembly, temperature measurement, calorimeter and sample container. Heat capacities can be determined from relative heat content measurements. Shomate function and qusai-local linear regression (QLLR) are useful to accurately derive the heat capacities from the heat contents. Several applications of the heat content measurements are described.

落下型熱量計を用いた熱量測定は，1000 Kを越えるような高温度域での熱容量，熱含量，相変化熱などの決定法として有効であるが，高温ゆえに実験技術上の問題点も多い。精度よく高温熱含量を測定するために落下型熱量計の加熱炉，温度測定，熱量計，試料系に対しては，様々な工夫や注意を払った設計が試みられており，それらを紹介した。次いで，Shomate関数やQLLR法などの熱含量からの熱容量の導出方法について述べた。また，熱含量測定の応用例として熱力学解析法による合金の熱力学量の導出方法などについて記述した。

岩手大学
 
 

熱測定  NetsuSokutei   29(4), 173-179  (2002)

【 解 説 】

Accurate data for high temperature heat contents and heat capacities of substances are valuable for the study of materials and processes at elevated temperature. The heat contents and heat capacities of solids and liquids above 1000 K are determined experimentally by drop calorimetry and the use has been extended to higher temperatures by using modern techniques for measuring and controlling temperature. The general requirements for the drop method are described in terms of furnace assembly, temperature measurement, calorimeter and sample container. Heat capacities can be determined from relative heat content measurements. Shomate function and qusai-local linear regression (QLLR) are useful to accurately derive the heat capacities from the heat contents. Several applications of the heat content measurements are described.

落下型熱量計を用いた熱量測定は，1000 Kを越えるような高温度域での熱容量，熱含量，相変化熱などの決定法として有効であるが，高温ゆえに実験技術上の問題点も多い。精度よく高温熱含量を測定するために落下型熱量計の加熱炉，温度測定，熱量計，試料系に対しては，様々な工夫や注意を払った設計が試みられており，それらを紹介した。次いで，Shomate関数やQLLR法などの熱含量からの熱容量の導出方法について述べた。また，熱含量測定の応用例として熱力学解析法による合金の熱力学量の導出方法などについて記述した。

岩手大学
 
 
 

熱測定  NetsuSokutei 29(5), 192-198  (2002)

【 解 説 】

部分相溶系であるポリフッ化ビニリデン（PVDF）とイソタクチックメタクリル酸メチル（isoPMMA）のブレンドの等温結晶化過程と融解過程をDSC-FTIR同時測定で検討した。PVDFのTGTG'（a型）とT3GT3G'（g型）コンホメーションのCH2横揺れ振動に帰属される795と810 cm−1の吸光度を各結晶型の結晶化指標として用いた。等温結晶化初期にはa型が生成し最大値を示した後，g型が生成した。a型とg型のIR吸光度変化の関係からa-g転移のメカニズムを検討した。PMMA組成が0.2以下のブレンドではg型はa型からの固相転移で生成したが，PVDFでは固相転移に加えて過冷却液体から直接g型が結晶化することが明らかになった。等温結晶化後の昇温速度では多重融解ピークが観察され，各ピークはa型の融解，a型の融解・再結晶化で生成したg型の融解ならびに等温結晶化過程で生成したg型の融解であることがわかった。

東京都立大学
 
 
 

熱測定  NetsuSokutei 29(5), 199-207 (2002)

【 解 説 】

Physics textbooks show Joule's paddle-wheel equipment in 1850 in relation to the law of conservation of energy, but describe nothing about the background of his experiments. Joule had made many kinds of experiments to determine mechanical equivalent of heat for a long period from 1843 to 1878. Unfortunately, academic society had not appreciated his early studies, because the concept of calorique had still prevailed in the middle of 19c. Even after clear evidence was presented, it takes a long time for the society to recognize a new scientific knowledge. This is a social nature of science, which should be emphasized in scientific education.

　科学・技術の社会的な影響が大きくなった今日では，科学や技術の営みについて深く理解することが求められている。しかしわが国の学校教育では，これまでそうしたことにあまり重点が置かれてこなかった。そのためか，科学史的な事柄について正しく触れられることがあまりなく，熱に関する科学史的な事柄についても必ずしも正確に伝えられていない。本稿で紹介してきたジュールによる熱の仕事当量の実験も，羽根車の回転による水の撹拌実験以外はほとんど触れられることがない。
　しかし，見てきたように，熱の仕事当量の測定実験は，実験の方法や回数，個々の実験に対する周到な配慮など，通常語られない部分にこそ，ジュールの誠実でねばり強い科学者としての営みが現れている。この実験のためにジュールがいかに苦労し努力したか，そうした点にも科学の歴史から学ぶことが大きいのではないだろうか。
　また，ジュールが当時としては最高のレベルの精密な測定を行っても，まったく無視されていたことなどは，科学の営みと科学的知識の社会的性格が如実に反映されていて，科学をメタレベルで理解する上でも興味深い点である。
　ともすれば，科学は一人の天才の孤独で数奇な営みだと捉えられるが，現実の科学は，むしろ集団的で社会的に営まれている。たとえ素晴らしい発見をしたとしても，それが社会的に認知されなければ，知識として成立することはない。社会的に認められるためには，学会で発表し論文として公刊し，多くの人に自らの説を説得力をもって示さなければならない。科学の知識は，そうした集団的な営みの中で鍛えられ発展しているといえる。ジュールの業績をたどってみると，一人のアマチュアがやがて科学者集団の中で認められ，歴史に残る科学者となっていったことがよく分かる。こうしたことを同時に学んでこそ，科学への興味が増し，深い理解につながるのではないだろうか。

京都教育大学
 

熱測定  NetsuSokutei  29(5), 208- 216 (2002)

【 解 説 】

光吸収された分子が、そのエネルギーを熱として溶媒へ放出する初期の過程を、実時間で捕らえるための幾つかの手法と、得られた結果を概説した。これらは全て、我々の開発してきた新しい手法であり、これらで検出できる「熱」の時間分解能は現在でも世界最高速である。この手法を用いることで、熱となるのは従来予想されていたより１桁ほど速いことが明らかとなってきた。溶質−溶媒相互作用と熱拡散モデルに基づいた、単純な熱放出のモデルを提案した。また同様な手法で、部分分子体積の時間分解測定も可能となることを示した。更に、ｃ｢Vや_ΔHの温度依存性を検討することで、熱膨張係数や熱容量の時間分解計測も可能となった。こうした熱力学量は、これまで物質の本質の解明に大きな威力を示してきたことを考えると、こうした量の時間分解計測により、多くの化学反応の機構の解明に非常に重要な寄与をするであろうことが理解できる。

京都大学
 

熱測定  NetsuSokutei  29(5), 208- 216 (2002)

【 解 説 】

Molecular shape and dipole moment causing non-isotropic interactions are very important for analyzing the mixing states of liquid mixture. They affect the curves of excess volume, excess isentropic and isothermal compressibilities, and the other excess properties through the molecular packing in both the mixtures and the pure liquids. Molecules far from a simple globule orient in unfavorable ways to make their volumes increase in mixtures and pure liquids, and flexible linear molecules squeeze into the room arisen from the packing of bulky molecules. Dipole moments on the molecules orient in the way restricted by various molecular shapes.

溶液の熱力学量に分子の形と非等方的相互作用は強い影響を与えている。過剰体積や過剰圧縮率等，特に体積に関係した量にその影響が現れる。Non-polar分子系でもpolar分子系でも分子packingや分子配向を通じて，分子の形が濃度不均一を助長している。Non-polar分子同士で形の異なる溶液，polarで球状あるいは鎖状分子とnon-polarな球状分子との溶液，およびpolarな分子同士の溶液において分子の形の与える影響について議論した。

元  大阪市立大学